5時半、アラームの音で目が覚めた。外はまだ暗い。
シェードを開けて外を見ると、星は見えなかった。でも雨が降ってないだけいいかな。

さっそくぬるめのお湯にゆっくり浸かってからシャワーを浴びて身支度を整える。
6時半には荷物をまとめて朝食を食べに行かないとならないのでちょっと忙しい。
若干の余裕を持って準備完了、荷物を部屋の前に出してカフェに向かった。

朝食は今日もパンと肉マン、フルーツを少々、それに紅茶。
食事を終え、部屋に戻り出発の準備開始。
今日は標高3500メートルまで行くので防寒対策をしないと。

とりあえずTシャツの上に長袖シャツ、そしてトレーナーにフリース、さらに厚手のウィンドブレーカー。
あとは手袋とマスク、サングラスに酸素ボンベ。
あっ、帽子をスーツケースに入れてしまった。ビニールの合羽もだ。まあいいか。

Dパックに必要な物を詰めこんでロビーに下りた。結構重たいな。
全員集まって外に出ると…寒い。なんだこの寒さ。もう真冬のようだよ。
バスはホテルを後にし黄龍を目指す。

山岳部の険しいワインディングをエンジンの唸り声を上げながら登っていく。
遅い車に追いつくと、それがバスであろうが何であろうがどんどん追い越す。
といってもこの辺りを走っているのはほとんどが観光バス。
まるでバスレースのSSの様相だ。これでよく事故が起きないな。
崖には頼りないガードレールがあればまだいい方だ。
もし踏み外したら、遥か下まで転落だ。命の保証はないうえに補償は安い。

途中バスは補水のため停車。そこからはまるでエベレストのような岩山を望むことができた。
こんな山、日本には無いもんな。そしてこんな道も。
補水を終えると再び走りだし、標高4000メートルの峠にさしかかった。

バスはそこで停車。その先のピークは雪宝頂という。
駐車場の周囲にはたくさんのチベットの人が馬を従えて待っていた。
馬に乗ってピークに向かう人の姿も見えた。

しばらく時間があったので、僕も馬に乗って記念写真を撮ることにした。
もちろん有料。料金は2元。でも僕は細かいお金を持っていなかったので
5元札を渡すとお釣が2元しか無いという。本当かなあ。
でもその代わりに周囲を少し歩いてくれることになった。
3元といえば約45円。エジプトの1ドルよりずっと安い。

現地のガイドさんに写真を撮ってもらってバスに向かった。
馬を曳いている人は親切で、バスのすぐ近くまで乗せて行ってくれた。
バスに戻った人たちが僕に注目していた。

そこから先はずっと下り坂。途中ツアー恒例のお土産物屋に寄った。
僕はヒスイは驚くほど高く、興味が無かったので店を出て街を散策した。
九塞溝の空港ができたせいか、新しい店が多く、どこも同じようなお土産を売っていた。

時間になったのでバスに戻り、いざ黄龍へ。
そして黄龍にはお昼前に到着。さっそくホテル(華龍山荘)のレストランに行き昼食。
ここはバイキングではなくコースの中華だった。
テーブルは2つに別れ、僕達の方が先に食べ終わり、数人がトイレに行くと
席を空くのを待っていた中国人が来て席に座って動こうとしない。
んんーっ、このパワーというかバイタリティーというか、この強引さは日本人には無いな。

食事を終えるといよいよ世界自然遺産、黄龍トレッキング開始。
それにしても寒い。これだけ厚着をしてるのにな。
まだここは標高3100メートル、目的地は3500メートルだ。まあ歩けば暑くなるかな。
レストランから黄龍の入口までは歩いて向かった。

ツアーのパターンが同じなのか、たくさんの人達が入口に向かっていた。
そしてゲートを通り中に入った。しかし人が多い、多すぎる。
ここは中国人の新婚旅行先では一番の人気の場所といほどの人気の場所だ。

木道に入ると身動きもとれないほどの混雑。まるで通勤ラッシュの駅だよ。
まさかこんなに人が多いとは思ってもいなかったな。
酸素が薄く、思考能力が低下、ただひたすら木道を登っていくだけだ。

これじゃとてもじゃないが自分のペースでは歩けない。写真もゆっくり撮っていられないほどだ。
いい場所で写真を撮ろうとすると中国人が割りこんできて退けと言う。
それに所かまわず大声で話すし、マイペースで歩いていて突然立ち止まる。
ここにはマナーというものが無いのだろうか。まあここは日本じゃないからな。

一番上の黄龍寺まで行きはだいたい3時間、帰りは2時間かかると聞いた。
でも僕は歩くのが早いので、上りは2時間で十分だと思っていた。
しかしこの大渋滞じゃ本当に3時間かかってしまうかもしれない。
それにお茶を飲んだうえ、寒くてトイレが近くなり各駅停車でペースが上がらない。
さらに時々籠が人を蹴散らしながら猛スピードで登っていく。
こんな高地でよくあんなに早く登れるな。それも人を乗せて。

その籠は椅子に2本の竹を取り付け、前後一人づつで担いでいる。料金は片道220元。
担いでいる人はすごい体力だ。僕はただ歩いているだけで息が切れるのに。
ほとんど駆け足で登っていくよ。

中国人の多くは大きな空気枕のような物を持っている。
その中には酸素が入っていて、チューブを鼻に付けて歩いている。
どうやらそれはレンタルらしい。それが歩いていると邪魔なんだよ。

中ほどまで登ったころ、けっこうな人達がダウンして戻って行くためか道が空いてきた。
やっと自分のペースで歩くことができる。僕は現地ガイドを追い越してどんどん登っていった。
それでも標高が高いので自制して登る。

木道は川の流れに沿って作られていて、車の通れる道は無い。
その川は、まるで鍾乳洞の地上版といったところだ。
段々畑のようなリムプールが無数にあり、スカイブルーの水が溜まっている。
そして水中に落ちた木の枝が腐敗せずに石灰化している。
ここの水は相当石灰分が多いようだ。
それにしてもどうしてこんな物ができたのだろうか。
自然の力に圧倒された。

そして約2時間で黄龍寺まで登って来た。寒い、雪が降っているよ。
その先の遊歩道に入ると思わず僕は言葉を失った。そしてその場に立ち尽くしてしまった。
なんだ、これは!昨日の九塞溝とは違った圧倒的な神秘さだ。
本当に言葉では言い表せないほどの幻想的な風景だ。
まさに世界自然遺産だと納得するよ。

息を切らせてここまで登って来た甲斐があった。今までの疲れが一気に吹き飛んでしまうよ。
この自然の力と神秘さを、僕は全身で感じることができた。

そして遊歩道を1周して黄龍寺まで戻って来た。
中を少し見ていたが、気温も低く風もあるので適当に切り上げて下ることにした。

帰りは下りなので楽だ。しかし人が多くてペースが上がらない。
しばらくすると、例の早籠が下ってきた。
何と言っているのよくわからないが、多分「籠だ、道を開けて」と言っているのだろう。
するとみんな申し合わせたように道を開ける。

おっ、こりゃいいや。僕はその籠の後にぴったり付いて下っていった。
これはいいペースで下れるぞ。まるで緊急自動車の後ろを走っているようだ。

人混みがなくなると僕は自分のペースに戻した。
すると同じツアーで来たおじさんと合流した。あれっ、僕が一番だと思ったのにな。
あの年でよくこんなに早く来たな。でもおじさんも自分が一番だと思っていたようだ。
そこからは一緒に下山。帰りは55分で下ってきた。

雨が降ってきたのでしばらく入口の屋根の下で待っていた。
すると籠で登っていったおじさんも下りてきた。
しかしそれ以後は30分待っても誰も下りてこない。
集合時間のまだ1時間半も前だからな。ちょっと早すぎたかな。

さらにしばらく待っても来ないので、痺れを切らして集合場所に行くと数人が戻ってきていた。
聞くとやっぱり僕達が一番早かったようだ。

そして集合時間の5時半前には全員が無事下山してきた。
結局上まで行けずに折り返して来た人も何人かいた。

全員が集まったところでバスに乗りこみ今日の宿泊地、松藩へ。
みんな疲れたのかバスの中はずっと静かだった。
そして7時過ぎ、ホテルに到着。今度は3つ星級だ。
一度部屋に入った後夕食。ヤクの肉も出たので食べてみたが
牛肉のようだがそれとはちょっと違った感じの味だった。
そして食事を終えると部屋に戻った。

ここのホテルでは暖房は今日から入ったようだ。
いままでこの寒い中、宿泊客はどうやって過ごしてたのだろうか。
でも暖房は夜の12時で切れるという。布団をたくさん掛けて寝ないとな。

お湯の出も悪く、バスタブも小さい。でも中国の田舎ではこんなもんだろうな。
それでもこの辺りでは一番よさそうなホテルだった。

黄龍を下山したころから何となく頭が痛かった。高山病かな。
今日はかなり疲れたはずだがあまり疲労感を感じない。これも高山病かな。
ここは標高2700メートルだ。ゆっくりお風呂に入って休もう。

本日の歩数:11904歩(もっと歩いたような気がするな)
四川省松藩順城南路 黄龍国際大酒店泊 ★★★ 8429号室
HUANGLONG INTERNATIONAL HOTEL
☆☆☆2003年10月23日☆☆☆
★★★スカイブルーの幻、黄龍★★★
TOPへ  翌日へ